安田浩一『ネットと愛国』

ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて (g2book)

ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて (g2book)

ルポライター安田さんの作品。近年の行動する保守に集まる人々の構造的な理由をするどく分析。単に排外的で、人種主義と切り捨てるのではなく、丹念に語りに耳をかたむけ、その根本にある「不安」をすくい上げようとしている精力的な作品。

 在特会はインターネットを主な活動場所として、「在日特権を許さない市民会」として、主に在日コリアンへの批判を中心に支持層を広げていった会。その主張はある程度事実に即しているものの、誇張と陰謀説が中心といえる。また街頭でのデモは過激なヘイトスピーチが中心で、聞くに堪えないものが多い。ではなぜ、一定程度の支持層を獲得しているのか。そしてさらにいえば、「勢力を拡大」しているのか。

 その背景には、社会に対する不安感、不満感、そして承認欲求が渦巻く。会に参加している個々人は「われわれと同じ感覚を持つ」人々。決して、極端な人種主義者でもなく、むしろ家族や、友人を大切にしたいと考えている人が多い。しかし個々のライフ・ストーリーの中で出会ったこの「会」は、彼らのルサンチマンを発散する場として機能する。その会が選ばれるにはもちろん東アジアの地政学的な問題も横たわる。さらに言えば、確かに戦後の極端な左翼言説、メディアの偏重、健全なナショナリズムの欠如もあるだろう。しかし、単に社会構造だけには回収できない、個々のストーリーも背景に渦巻く。

 本書は単に「あいつらはおかしい」では切れない、むしろわれわれ一人ひとりが持つ何かが、人を会に向かわせることを指摘する。それは戦後社会が失ってきた「共同体的なつながり」ということもできる。いずれにせよ本書を通じて学ぶことは、われわれ人間の弱さなのかもしれない。