ヨプケ『軽いシティズンシップ』

 

軽いシティズンシップ――市民、外国人、リベラリズムのゆくえ

軽いシティズンシップ――市民、外国人、リベラリズムのゆくえ

 

 近年のシティズンシップ研究としては、一歩進んだ感じがする議論。一国内での権利保障をこえつつ、しかし理想主義的なポストナショナルな権利には逃げ込まない議論。他方で国境は強化されつつも、同時に社会生活はグル―バル化が進んでいる現在、外国人や移民の権利はどこまで普遍的に広がり、そしてリベラル化しているかは検証されるべき作業であろう。現代的な状況に即したシティズンシップ研究だといえる。

矢月秀作『もぐら戒』

もぐら 戒 (中公文庫)

もぐら 戒 (中公文庫)

もぐら 闘 (中公文庫)

もぐら 闘 (中公文庫)

東野圭吾『夜明けの街で』

夜明けの街で (角川文庫)

夜明けの街で (角川文庫)

テーマは不倫。不倫は文化とのたまわる方もいるが、この本を読むと文化というより「性(さが)」という方がふさわしい。まるで蟻地獄のように、もがけばもがくほど、逃げられなくなる。それでも甘美な罠に吸い込まれるようにはまっていく人間の性。殺人事件はこの小説にとってスパイスにすぎない。本当のミステリーは、日常の中のなにげない会話や、行動、約束などに潜んでいるのかもしれない。世の妻帯者には恐ろしい一冊かも。。

見田宗介『現代社会はどこに向かうのか』

永山則夫の起こした殺人事件を分析した「まなざしの地獄」から約30年。秋葉原の無差別殺人事件を「まなざしの不在」の時代の殺人事件として対比する。この二つの事件を合わせ鏡として、社会で求められる人間の関係性、そして現代社会の構造的な特徴を鋭く分析する。平易な言葉でつづられつつも、我々が直面している社会を鮮やかに浮かびあがらせている。

 

民族学校

知っていますか、朝鮮学校 (岩波ブックレット)

知っていますか、朝鮮学校 (岩波ブックレット)

外国人学校―インターナショナル・スクールから民族学校まで (中公新書)

外国人学校―インターナショナル・スクールから民族学校まで (中公新書)

朝鮮学校が高校無償化からはずされ、自治体からの補助金もとりやめられる報道がなされた。しかしそのわりには民族学校の実態は実は知られていないし、具体的な情報は流れていない。本国の政治的な動きに対し、制裁という名のもと学校を標的にする前に、もっと実態を知る必要があるだろう。

金哲彦『走る意味』

走る意味―命を救うランニング (講談社現代新書)

走る意味―命を救うランニング (講談社現代新書)

金哲彦さんの伯父はあの有名な、高史明さん。血は争えないのか文章がうまい(ちなみにお兄さんは某有名フレンチレストランのシェフ)。彼の在日コリアンとしてのプライド、生活史、そして走ることの哲学がわかりやすく書かれている。マラソン好きとしても、研究目的でも読める一冊。走ること、それは人生である。

湊かなえ『夜行観覧車』

夜行観覧車

夜行観覧車

現在放送中のドラマの原作。手法としては羅生門的手法か。一つの出来事も多面的に見ることができる。この本では、家族ごとの共通理解や解釈に焦点があてられる点が興味深い。テーマとしては共同体内の共通解釈とそこへの共感、そして解釈の違いが争いを生み出す点のだろう。そして真実とは違う解釈を作り出すメディア自体への問題提起もスパイスがきいている。やや自然主義的な終わり方が気になる。